忍者ブログ
図書館、資料館に書き溜めてきた日記やSS(小説)を保管するところ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

(2014.02.15 儀式場跡地にて。直後寝込んだ時期に受け取った私書などを元にした、後日談集その1。)

 ――わらわれている。

『――――』

 囁き。叫び。
 締め付けられるような息苦しい感覚。
 凍りついてしまうような寒さ。
 真っ黒で真っ赤でいろんなものがぐちゃぐちゃで、

 けれど、どこからか仄かに感じる温もりで、それらは消えてなくなった。

 その繰り返しだった。



 目が覚めた。
 嗚呼、夢だ。夢、だったんだと、気付く。あの夜の直後にも見た気がする、夢。
 見渡す、自分の部屋。そうだ、ちゃんと帰ってこられたのだった。扉を開いたら、確かに、彼はそこにいて、

「ァ、ィ……」

 ……今は、いない。
 真っ先に探した姿はどこにも。乾ききった喉は、名を呼ぶ事すらままならない。
 今日は、何日だったか。壁に掛けられたカレンダーを遠目に見ただけでは、わからなかった。
 ただ、周囲が明るい事はわかる。今が昼間なんだとは。少なくとも、あれから一晩は経っているようだった。
 彼がいない事に一抹の不安感を覚えるけれど、…今はきっと出かけているのだろう。そう、思って。

「…、」

 そうだ。彼はちゃんと、食事を摂っているだろうか。
 意外と身体は楽に起こせた。身を起こして初めて、その服装にも気が付く。
 血の染み込んだそれではなく。綺麗な寝間着。
 着替えさせてくれたのか。そもそも、自分でベッドに倒れ込んだ記憶もない。ならば、やはり彼が。 自然、眉は下がる。

 嗚呼、尚更。食事を作ってやらねば。
 ベッドから動こうと全身を動かした途端、楽だと思った身体は急に重苦しくなる。
 それでも、のそり、のそり、とゆっくりででもベッドから降りた。
 立ち上がったら、ひどくふらつく足元。…不思議と痛みはもう、あまり感じないのだが。力が、入らない。

 そんな時、ドアポストに何かが投函された音。それが詰め所に送られてきたもので、代わりに直接同僚が部屋まで届けてくれたのだとは知らぬまま。
 手紙かな――誰からだろう。ぼんやりとした頭と身体が、ふらふらと扉まで向かって、その一通を手に取った。

「………… …!」

 綴られた一文。そして、最後の、差出人の名前。
 力ない瞳が、見開かれて。
 刹那、がくんと膝が崩れた。

「っ――」

 呟く声は酷く掠れすぎて、最早音になっていなかった。
 ズキリ、と頭痛。激しい目眩。 手紙を手にしたままの右手が頭を抑える。
 …ああ、もう、

「… …  」

 脆い自身の体調に苛立つも束の間、意識がぼやけはじめる。
 
 そのうち行かねば――それよりまずは彼の夕飯を――
 そう思っても、身体が言う事を聞かない。

 床を這うようにしながら、ベッドまで。この一連の動作ですら、体力を奪われている気がする。引き摺れば、衣服の下の足も擦られて、傷が痛む。
 何とか辿り着けば、吸い込まれるように、
 ……また、眠りに落ちる。





19日、早朝。

 付きっきりで居てくれている彼はきっと、寝ているかもしれない時間帯、だっただろうか。

「ッ――!」

 フッ、といきなり目が覚めた。
 また、わるい、ゆめだ。肌が汗でひどく湿っているのがわかる。
 はぁっ、と息を吐き出す。その場から動く事もしないまま、また、瞼が重たくなって、いくが――

「――……?」

 マジカルレターが一通、現れた。新しい、手紙だ。また昨日の? 否、別の人からだろうか?
 顔の上に落ちたそれを右手がゆっくりとした動きで摘んで拾う。…何故だか、今すぐにでも読まないといけない気がして。
 もう意識もぼやぼやとした中で、開いてみた。

「…………ぇ」

 差出人は良く知った相手で、彼もちゃんと当日話をしには行ってくれたらしくて、そこは安心したが、
 告げられる内容。昨日以上に、緑眼が揺れた。動揺した。

、…」

 なんで。

っそ……」

 そんな。うそだろ?
 あいつが――?
 なんで。なんでなんでなんで
 それじゃあ、オレは、
 そ、んな……
 オレは、
 
 オレは、……つまり……

『――――』

 夢の中の声が脳裏に轟く。

「……ッ……」

 震えた。泣きそうになった。息苦しくなった。
 けれど、けれど……じゃあ、それなら、そうだ、早く
 レターは寝間着のポケットの中に押し込んだ。彼に見つからないように。

 頭が痛い。
 吐くものもないはずなのに、吐き気がする。
 それらから逃げるように、布団を被った。

 今の自分なら――意識なんて、簡単に落とせてしまうのだから。


PR
233  213  241  227  226  225  238  224  223  239  240 
忍者ブログ [PR]